年齢が上がるにつれて子ども同士の人間関係も複雑になっていきます。お子さんがいらっしゃる方ならば「もしも自分の子どもがいじめにあったらどうするべきか?」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
今回はチャイルドカウンセラーコースで学んだ内容をもとに、青少年期のこどものいじめに対するカウンセリングについて考えてみます。
いじめの定義とその心理的な背景とは
文部科学省の定義によると、いじめとは「いじめられている子どもと同じ学校に通っているなどの一定の人間関係を結んでいる他の子どもが行う「心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じたいじめも含む)」であり、いじめられている児童生徒が「心身の苦痛を感じているもの」であるとされています。
暴力行為や直接の悪口や無視する行為のほか、現在では子ども同士のSNSにおけるいじめ行為も存在するため、大人のほうからはますますいじめの実態がつかみにくい状況になっているようです。
いじめは集団生活の中で起こるものですね。そこにはいじめを行う首謀者や実行者、いじめられる被害者、いじめの実行は行わないが止めることもない傍観者の3つのグループが存在します。
いじめを行うものの心理的背景にはストレスの発散や他人への共感能力の欠如、他人を貶めることでしか優越感を感じられない隠された劣等感などがあるそうです。
実行者のなかにはいじめの首謀者に従わなければ自分が次の標的になるため、本当は興味がなくてもいじめに加担しているケースもあるでしょう。積極的にいじめを止めようとしない傍観者にも同様の心理が働いていることが考えられます。
一方いじめられている被害者の心にはいじめられた悲しみや怒り、いじめられっ子というポジションにいることへの羞恥心、いじめられるのは自分が悪いのではという自責の念などが生じます。
子どもを持つ親の心理としてはわが子がもしもひどいいじめにあっていたらと考えると、もう居ても立っても居られない気持ちになりますね。同時に加害者にはなってほしくないと強く思います。
いじめられた子の心に寄り添い気持ちを丸ごと受け止めよう
いじめられている子どもへのチャイルドカウンセリングでは、まず子どもの気持ちに寄り添うことから始めるといいます。怒りも悲しみも自分を責める発言も否定せずにただ受け止め、子どもが自分の気持ちを素直に話せるような信頼関係を結ぶことが先決だそうです。
子どもの口から「自分がこんなだから」と自己否定の言葉が出たらすぐに「そんなことない!悪いのはいじめた側!」と普段の私なら言ってしまいそうですが、子どもの自分自身を否定する言葉さえも最初は丸ごと受け止めるべきであるというところに目から鱗が落ちました。
いじめられた多くの子どもは自尊心を大きく傷つけられ、自分の性格や容姿、学業や運動能力などが至らないからいじめられるのだと自分を責めているケースが多いそうです。
いじめの被害者になっていることを恥じる気持ちがあるとつらくてもいじめの事実を人に知られないように隠そうとする心理が働くため、なかなか本心を話してくれない場合もあるといいます。
また、小さな行き違いが重なって大人への信頼感を失っている場合にも、子どもは「どうせ本当の気持ちを話しても助けてはもらえない」と諦めの気持ちを抱いてしまうでしょう。
まずは子どもの気持ちをジャッジせず、この人にはどんなことを話してもいいという安心感を持ってもらうことが大事なのですね。子どもとカウンセラーの信頼関係が築けたうえで、子どもが自責の念から解放されて自尊心を取り戻し、自己肯定感をアップさせるような働きかけを行っていくという流れです。
いじめた子も心に問題を抱えているかも
いじめを行う子どものなかには生育環境や家庭に問題があり、保護者と十分な愛着関係を築けないまま育ったケースもあるそうです。
その場合、他者を尊重したり共感したりする心が未発達で人の痛みに鈍感だったり、親の過干渉や無関心、家庭不和などからくるストレスが子どもの攻撃性を高めている可能性もあります。
基本的に自分が幸せいっぱいで満ち足りている人は、他人にも寛大な心で接することができるような気がします。他人をいじめてやりたいと思う心の裏には、苦しみやねじれた感情が潜んでいるのかもしれません。自身が周囲の大人から良い関わりを持ってもらえなかったために他人の心を思いやる方法がわからないとしたらとても悲しいことです。
いじめに関わるカウンセリングを行う場合には、まずいじめられている子どものケアが先決とされていますが、いじめた側の子どもが抱える問題にも目を向けて適切な支援を行う必要があります。
他者を攻撃したいと思う心の裏に隠されたその子の苦しみを汲み取り、原因となっている問題を解消することがいじめの根本的解決につながるのだそうです。
たしかに「いじめは悪いこと」とただ叱るだけでは「バレたら罰せられる」と認識するだけかもしれず、そのあとはバレないようにもっと巧妙にやろうと考えてしまう可能性もあります。
ただ叱るだけではいじめた子のためにもならないのですね。
犯罪行為として取り扱われるべきいじめとは
いじめの中には内容がエスカレートして盗みなどの犯罪行為を強要するものや、子どもの命にかかわる暴力、金品を要求するなどの深刻なものもあります。
文部科学省の「いじめの問題に対する施策」においても、このような犯罪行為として扱われるべきいじめや、子どもの心身または財産に重大な被害をもたらすいじめは教育的配慮と被害者の意向を汲んだうえで早急に警察に相談・通報すべきとされています。
これは文部科学省から各都道府県の教育委員会教育委員長や各都道府県知事に対して「早期に警察へ相談・通報すべきいじめ事案について」として正式な文書で通知されていることです。
時折ニュースなどでいじめにより金品を要求され、親にも相談できずにそれを苦にして命を落とすようないたましい事件を目にすることがあります。子どもがどんな思いで最後の選択をしたのかと思うとたまらない気持ちになります。
チャイルドカウンセリングにおいてはクライエントから情報収集をする際に、これらの深刻ないじめの可能性を見出した場合、一刻も早く学校等と連携のうえで警察や弁護士への相談をすすめる必要があることがよくわかりました。
いじめられてもいじめてもそのとき保護者はどうするべきか
今回いじめに関するチャイルドカウンセリングで学んだことがふたつあります。
ひとつはいじめられた子の気持ちに寄り添うときは、どんな思いも否定せずに受け入れるということです。子どもの中にどんな悪感情が生まれていてもそれを良いとも悪いともせず、子どもの中に溜まった思いを全部吐き出してもらって心身ともに身軽になってもらうことが大切なのだと感じました。
子どもは大人に比べると小さな世界で生きているので、その大部分を占める学校で自分の存在を否定されると世界が終わったような気分になるのでしょう。チャイルドカウンセリングの場が傷ついた子どもの安心できる小さな居場所となり、そこから世界は広くこれから数多くの出会いが待っているのだということを伝えられたら素晴らしいと思います。
もうひとつは、いじめる子も苦しみの中にいる場合があるということです。加害者となった子にどんな事情があったとしても被害者がいじめを我慢する必要は全くありませんが、いじめをきっかけとして問題が明らかになり状況が改善されるのはとても良いことだと感じました。
また、誰にとっても自分の子どもが加害者や傍観者となる可能性があり、そのとき親としてどのように行動するのか大変考えさせられる問題でもあります。運が悪ければわが子がいじめられたりいじめに加担してしまったりすることがあるかもしれません。そのときに子どもから相談してもらえるような関係を今から築く努力をしていきたいと強く思わされました。